1-7.𝑢倍か𝑑倍の確率分布の連続化

1-6で求めた分布は離散分布であるから、変数の値が𝑆_0𝑢^𝑖𝑑^{𝑛−𝑖} (𝑖=0,1,2) の時しか意味を持たない。定額の場合と同様に、この分布を連続分布に変換することを考える。定額の場合と同様に、株価の上昇した期間数を 𝑖とすると、 𝑖は二項分布する ので、その二項分布を正規分布で近似し、さらにその定義域を変数変換す ればよい 。

 

定率の離散分布は二項分布の確率変数 𝑖=0,1,2 を、上昇回数が 𝑖回だった場合の株価𝑆_0𝑢^𝑖𝑑^{𝑛−𝑖} に代えた分布である。
試行回数𝑛, 確率 𝑝の二項分布 𝐵(𝑛,𝑝) は、平均 𝑛𝑝, 分散 𝑛𝑝(1−𝑝)正規分布 𝑁(𝑛𝑝,𝑛𝑝𝑞) (𝑞=1−𝑝) で近似できる。この性質を使って 𝑖 を変数変換する。

確率変数の変数変換においては、一般に次の性質が成り立つ(再掲)。

 

確率変数Xの密度関数をf(X)とするとき、Y=g(X)である確率変数Yの密度関数は、
f(g^{-1}(𝑌))\genfrac{}{}{}{0}{d}{dY}g^{-1}(Y)

である。(ただしg^{-1}(Y)g(X)逆関数

 

1-2節でみたように、𝑓(𝑋)を 平均 𝜇 分散 𝜎^2正規分布とすると、 二項分布𝐵(𝑛,𝑝)を近似する正規分布 𝑁(𝑛𝑝,𝑛𝑝𝑞)確率密度関数は、

𝑓(𝑋)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi𝑛𝑝𝑞}}\exp\left[−\genfrac{}{}{}{0}{(𝑋−𝑛𝑝)^2}{2𝑛𝑝𝑞}\right]

である。この 変数 X

Y=g(X)=S_0u^Xd^{n-X}

であるY で変数変換する。 𝑋 について解けば、

𝑋=𝑔^{−1}(𝑌)=\genfrac{}{}{}{0}{\log𝑌−\log𝑆_0−𝑛\log𝑑}{\log𝑢−\log𝑑}

であり*1、 Y で 微分すると

\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑌}𝑔^{−1}(𝑌)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑌(\log𝑢−\log𝑑)}

となるから、Y確率密度関数

𝑌=𝑓(𝑔^{−1}(𝑌))=\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑌}𝑔^{−1}(𝑌)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi𝑛𝑝𝑞}𝑌(\log𝑢−\log𝑑)}\exp\left[−\genfrac{}{}{}{0}{\left(\genfrac{}{}{}{0}{\log𝑌−\log𝑆_0−𝑛\log𝑑}{\log𝑢−\log𝑑}−𝑛𝑝\right)^2}{2𝑛𝑝𝑞}\right]

変形すると、

=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi𝑛𝑝𝑞}𝑌\log\frac{u}{d}}\exp\left[−\genfrac{}{}{}{0}{\left(\genfrac{}{}{}{0}{\log𝑌−\log𝑆_0−𝑛\log𝑑-np\log u+np\log d}{\log\frac{u}{d}}\right)^2}{2𝑛𝑝𝑞}\right]

=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi𝑛𝑝𝑞}𝑌\log\frac{u}{d}}\exp\left[−\genfrac{}{}{}{0}{\left\{\log𝑌−\log𝑆_0−𝑛p\log u-n(1-p)\log d\right\}^2}{2𝑛𝑝𝑞\left(\log\frac{u}{d}\right)^2}\right]

=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi𝑛𝑝𝑞}𝑌\log\frac{u}{d}}\exp\left[−\genfrac{}{}{}{0}{\left\{\log𝑌−\log𝑆_0−𝑛\log(u^pd^q)\right\}^2}{2𝑛𝑝𝑞\left(\log\frac{u}{d}\right)^2}\right]

これが、求める(連続)確率分布の式である。実はこれは 、 対数正規分布

𝐿𝑁(\log𝑆_0+𝑛\log(𝑢^𝑝𝑑^𝑞), 𝑛𝑝𝑞(\log\frac{𝑢}{𝑑})^2)

の式に他ならない。

 

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*1:\logは自然対数とする。以下同じ。