2-1.対数期待値の最大化

最初𝑋_0の資産が、 1 期間後に 𝑅倍、( 𝑅\lt1のこともある)になるような投資があったとする。

𝑅は毎回異なるが、 𝑅がとりうる値とそれが起きる確率は決まっているとする。𝑅は「ある確率で元金が *倍になる」という性質のものなら何でもいい。たとえば1/2の確率で資金が2倍になり、 1/2 の確率で半分になる等。この場合𝑅は 2 か 1/2 かどちらかである。

より一般的に言えば、全部で𝑚とおりの結果があり、

「確率𝑝_1で資金が 𝑟_1倍、 𝑝_2𝑟_2倍、… 𝑝_𝑚𝑟_𝑚倍になる、ただし𝑝_1+𝑝_2+⋯+𝑝_𝑚=1𝑟_𝑘\gt0

ということがわかっている投資である。この場合、ある1 回の投資で起きる 𝑅は各𝑟_𝑖のいずれかの値をとることになる。 𝑅は各回で起きる(あるいは実際に起きた)値、 𝑟_𝑖𝑅がとりうる値、である。

この投資を何期間も繰り返した時に、成長率を最大にする方法を考える。

𝑘回目の 𝑅𝑅_𝑘とする。 投資を繰り返すとき、 𝑘 期間後から 𝑘+1期間後までの資産の変化は

𝑋_{𝑘+1}=𝑅_{𝑘+1}𝑋_𝑘

だから、この投資を𝑛回行うとすると、 𝑛期間後の資産 𝑋_𝑛は資産の初期値 𝑋_0に各 𝑅_𝑘をすべて掛けたものになる。すなわち、

𝑋_𝑛=𝑅_1𝑅_2⋯𝑅_𝑛𝑋_0

である。𝑋_𝑛𝑅_𝑘の順番にはよらない。

𝑛期間後の資産が当初の何倍になったか、すなわち 𝑋_𝑛/𝑋_0を「成長率」と呼ぶことにすると、成長率は、

𝑋_𝑛/𝑋_0=𝑅_1𝑅_2⋯𝑅_𝑛

である。

𝑋_𝑛/𝑋_0を最大化する方法を考える。各 𝑅は正なので両辺を 1/𝑛乗し
ても大小関係は変わらない。

(𝑋_𝑛/𝑋_0)^{\frac{1}{𝑛}}=(𝑅_1𝑅_2⋯𝑅_𝑛)^{\frac{1}{𝑛}}

この式の右辺は𝑅_1, 𝑅_2, ⋯, 𝑅_𝑛の相乗平均である。つまり成長率 𝑋_𝑛/𝑋_0を最大化するには 𝑅_1, 𝑅_2, ⋯, 𝑅_𝑛の相乗平均を最大化すればよいことがわかる。

さらに両辺の対数をとると(対数関数は単調増加なので対数をとっても大小関係は変わらない )、

\log(𝑋_𝑛/𝑋_0)^{\frac{1}{𝑛}}=\log(𝑅_1𝑅_2⋯𝑅_𝑛)^{\frac{1}{𝑛}}

変形して、

\log(𝑋_𝑛/𝑋_0)^{\frac{1}{𝑛}}=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑛}(\log𝑅_1+\log𝑅_2+⋯+\log𝑅_𝑛)

上式の右辺は\log𝑅_1, \log𝑅_2, ⋯, \log𝑅_𝑛 の相加平均(期待値)を表している。つまり成長率の最大化には、「𝑅の対数」の期待値を最大化すればよい。

𝑅は「確率 𝑝_1で賭け金が 𝑟_1倍、 𝑝_2𝑟_2倍、… 𝑝_𝑚𝑟_𝑚倍(ただし 𝑝_1+𝑝_2+⋯+𝑝_𝑚=1)」という条件に従うと仮定したので、各 𝑅_𝑘𝑟_1, 𝑟_2, ⋯, 𝑟_𝑚 のいずれかの値をとるが、投資の回数 𝑛を十分大きくすると、値 𝑟_1をとる 𝑅𝑛𝑝_1個、値 𝑟_2をとるものが 𝑛𝑝_2個、 となるはずである(統計学の「大数の法則」)。したがって 𝑛が十分大きいとき、 \log𝑅の総計「 \log𝑅_1+\log𝑅_2+⋯+\log𝑅_𝑛」は「𝑛𝑝_1\log𝑟_1+𝑛𝑝_2\log𝑟_2+⋯+𝑛𝑝_𝑚\log𝑟_𝑚」と等しくなるはずである。これを上
式に代入すると、

\log(𝑋_𝑛/𝑋_0)^{\frac{1}{𝑛}}=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑛}(𝑛𝑝_1\log𝑟_1+𝑛𝑝_2\log𝑟_2+⋯+𝑛𝑝_𝑚\log𝑟_𝑚)

=𝑝_1\log𝑟_1+𝑝_2\log𝑟_2+⋯+𝑝_𝑚\log𝑟_𝑚

となり、結局、成長率𝑋_𝑛/𝑋_0を最大化するには、 𝑟の対数の期待値を最大化すればよいことがわかる。

 

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