2- 3 .期待値はプラスであること

なお、成長率を1 より大きくするためには、賭けの期待値 (対数期待値ではなく通常の期待値)は必ずプラス(賭け金 1 単位当たり期待値が 1 より大きい)でなければならない。 これを示す。

今考えているのは

「確率𝑝_1で賭け金が 𝑟_1倍、𝑝_2𝑟_2倍、…𝑝_𝑚𝑟_𝑚倍( 𝑝_1+𝑝_2+⋯+𝑝_𝑚=1)」

という賭けなので、賭け金1単位当たりの期待値は、理論的には

𝑝_1𝑟_1+𝑝_2𝑟_2+⋯+𝑝_𝑚𝑟_𝑚

になるはずである。実際に賭けを𝑛回繰り返した時の各回の結果の平均値は、

\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑛}(𝑅_1+𝑅_2+⋯+𝑅_𝑛)

であるが*1𝑛が大きくなると両者は一致するはずである(大数の法則)。この値が仮に 1より小さい、として式に書くと、

𝑝_1𝑟_1+𝑝_2𝑟_2+⋯+𝑝_𝑚𝑟_𝑚=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑛}(𝑅_1+𝑅_2+⋯+𝑅_𝑛)\lt1

となる。一方で、成長率𝑋_𝑛/𝑋_0 は、

𝑋_𝑛/𝑋_0=𝑅_1𝑅_2⋯𝑅_𝑛

で、成長率を1/𝑛 乗したものは 𝑅 の相乗平均である。

(𝑋_𝑛/𝑋_0)^{\frac{1}{𝑛}}=(𝑅_1𝑅_2⋯𝑅_𝑛)^{\frac{1}{𝑛}}

ここで、(相乗平均)\leq(相加平均)という定理

𝑛個の任意の正の数 𝑎_1,  𝑎_2,  ⋯,  𝑎_𝑛に 対して

(𝑎_1𝑎_2⋯𝑎_𝑛)^{\frac{1}{𝑛}} \leq \genfrac{}{}{}{0}{𝑎_1+𝑎_2+⋯+𝑎_𝑛}{𝑛}

が常に成り立つ

から、結局期待値が1より小さい場合は相乗平均も 1より小さいので、

(𝑋_𝑛/𝑋_0)^{\frac{1}{𝑛}}=(𝑅_1𝑅_2⋯𝑅_𝑛)^{\frac{1}{𝑛}} \leq \genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑛}(𝑅_1+𝑅_2+⋯+𝑅_𝑛) \lt 1

という関係が成り立つことがわかる。成長率𝑋_𝑛/𝑋_0は 1より小さい数 (𝑋_𝑛/𝑋_0)^\frac{1}{𝑛}𝑛 乗した数になるので、必ず 1 より小さくなる。成長率が 1 より大きくなるためには、少なくとも期待値は 1 より大きくなくてはならない。
当然ながら、期待値が1より小さい賭けは、賭け金を調整する等賭け方を変えるようなことをしても無駄で、やればやるほど損をする。

 

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*1:Rについては2-1節参照