3-6 .極限の分布

1期間で 𝑟倍か 1/𝑟倍になる株を最初 𝑆_𝐼円分持っていて、 1 期間経過後に株価が上がった場合は上がった分だけ売却し、下がった場合は株を買い増して、次の期間の初めには株資産が常に 𝑆_𝐼になるように 売買した時の、 𝑛期間経過後の株価の分布を求める。尚、株が下がった場合に買い増すための資金は十分にあるとする。

最初𝑆_𝐼円分の株を持っているので 、1期間後に株価が 𝑟倍( 𝑟\gt1)になると、資産は 𝑟𝑆_𝐼になる。この値に 𝑆_𝐼を 「 引いて足す」という操作を しても同じなので、株が上がった場合の資産は、

𝑟𝑆_𝐼=𝑟𝑆_𝐼−𝑆_𝐼+𝑆_𝐼=𝑆_𝐼+(𝑟−1)𝑆_𝐼

となる。株が1/𝑟倍に下がった場合には、資産は 𝑆_𝐼/𝑟になり、

𝑆_𝐼/𝑟=𝑆_𝐼/𝑟−𝑆_𝐼+𝑆_𝐼=𝑆_𝐼−(1−1/𝑟)𝑆_𝐼

となる。以下、下の図のような値動きとなる。

 

1期間目で株が上がった場合、 (𝑟−1)𝑆_𝐼の利益が出るので、これを換金して 、現金資産(𝑟−1)𝑆_𝐼と株資産 𝑆_𝐼に分けて持っておく。 2 期間目も上がればさらに(𝑟−1)𝑆_𝐼の利益が出る。以下繰り返し。

1期間目で株が下がった場合、 (1−1/𝑟)𝑆_𝐼の損失が出るので、資金を足して株を買い増し((1−1/𝑟)𝑆_𝐼だけ穴埋め)、株資産を 𝑆_𝐼とする。 2 期間目も下がればさらに(1−1/𝑟)𝑆_𝐼の損失が出る。以下繰り返し。

1期間目で株が上がり、 2 期間目で下がった場合、または 1 期間目で株が下がり、 2 期間目で上がった場合は、 [(𝑟−1)−(1−1𝑟⁄)]𝑆_𝐼の利益。以下繰り返し。

いずれにしても全資産は上の図の中の式のように変動していく。

結局、𝑛期間後の全資産は 𝑛期間中の株価が上昇した期間数にだけ依存し、これは 1-2節で検討した内容と同じである。 1-2節 の結果は、

 

「最初𝑆_0円の株価が、1 期間で確率 𝑝𝑢円上がり、確率 𝑞=1−𝑝𝑑円下がる」場合の 𝑛期間後の株価 𝑆正規分布

𝑁(𝑆_0+𝑛(𝑝𝑢−𝑞𝑑) , 𝑛𝑝𝑞(𝑢+𝑑)^2)

に従う。)

 

であった。すなわち求める分布は正規分布であり、𝑆_0=𝑆_𝐼𝑝=𝑞=1/2𝑢=(𝑟−1)𝑆_𝐼𝑑=(1−1/𝑟)𝑆_𝐼を代入して、

 

𝑁\left(𝑆_𝐼\left[1+\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{2}\left(𝑟+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}−2\right)\right] , \genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑆_𝐼^2}{4}\left(𝑟−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}\right)^2\right)

 

となる。これが求める分布である。

𝑆_𝐼=1𝑟=1.02𝑛=250の場合に、この正規分布を前節 の 𝑥=0.1の場合と比較したグラフが下記である。 横軸は 当初の全資産を 0 として 合わせている。 両者はほぼ一致し、少なくとも実用上はこう考えて差し支えな さそうである 。

この正規分布の平均(=中央値、最頻値) は、計算すると 1.0490 となり、 1 からのずれ0.0490 は前章のグラフで平均、中央、最頻値 が 𝑥=0で収束する値と概ね一致する。この「極限の正規分布」は、中央、最頻値を最大化するので安心感がある。さらに 1 年間で平均 約 5% の利益は悪くない。 この時分布の標準偏差は 0.313 、勝率(グラフが 𝑦軸より右側にある部分の面積)は 0.562 である。

(𝑟+1/𝑟−2)は単調増加なので、分布の平均は 𝑟が大きいほど大きくなる。ただし、 𝑟が大きくなれば分布の広がりも大きくなる。
𝑆_𝐼=1𝑛=250のとき、 𝑟=1.01,1.02,1.03の場合について分布のグラフは下記のとおりである。𝑟が増えると山のピークはわずかに右に移動するが、 分布は大きく広がってしまう。

 

 

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