3-5 分散を同程度に合わせる

全資産の定率を毎回賭ける投資を繰り返すとき、当初1000 円の資金の 25% を毎回投資することを繰り返すのと、 50% を毎回投資するのでは、 50% の方が変動が激しくなるのは当然である。では、当初 1000 円の資金の 25% を毎回投資するのと、当初 500 円の資金の 50% を毎回投資するのでは損益はどう変わるだろうか。

初期の全資産は 1000 円と 500 円で異なるが、 どちらも 1 回目の投資額は 250 円 で あ る。1 回目の投資額を 𝑆_𝐼(=250)と 先に 決め、 全資産の 𝑥 (0\lt𝑥\leq1) を毎回賭け ると決めると 、初期の全資産は 𝑆_𝐼/𝑥にな る (下図参照) 。

 

 

当初仮想的に 𝑆_𝐼/𝑥の全資産があると仮定し、そのうち最初に 𝑆_𝐼(=250) 円分の株を持っていて 、株価が上下したときに、 その時の (仮想全資産の比率 𝑥を株が占めるように売買を続けた場合の全資産額の分布を、 𝑆_𝐼/𝑥を基準に考える、ということを行うとどうなるか。 もちろんこの方法では負け続けた場合には当初の株資産 𝑆_𝐼にさらに追加で資金を投入して株を買い増さなければならないケースも出てくるが、資金は 十分にある とする。

この分布は、3-2 節 ですでに求めた対数正規 分布で初期値を 𝑆_0から 𝑆_𝐼/𝑥に変更したものになるから、

𝐿𝑁\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_𝐼}{𝑥}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{2}\log\left\{\left[1+(𝑟−1)𝑥\right]\left[1+\left(\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}−1\right)𝑥\right]\right\} , \genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{4}\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+(𝑟−1)𝑥}{1+\left(\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}−1\right)𝑥}\right)^2\right)

となる。

𝑆_𝐼=1𝑟=1.02𝑛=250の場合に、𝑥=0.1、0.5、1でのこの確率分布(対数正規分布)をグラフに描くと下記のようになる。

 

 

縦軸は確率で、横軸は𝑆_𝐼/𝑥からのずれである。 (各分布は横軸𝑆_𝐼/𝑥の位置の周りに広がるので、比較のために全体を 𝑆_𝐼/𝑥だけ左にずらして表示している。) 縦軸よりも右側の領域では得をしていて、左側だと損をしている。𝑥=1のグラフはスケールが異なるだけで3-4節の𝑥=1のグラフと同じである。この考え方で投資すると、𝑥の値が変わっても 分布の広がりは-1から1程度で あまり 変わらない。𝑥=0.1、 0.5 、 1 のときの標準偏差は それぞれ0.314 、 0.323 、 0.337である。 分布の形は、𝑥が小さいほど歪みが小さくなり、左右対称に近づいていく。さらに𝑥が小さいほど分布の頂点(最頻値)は右に移動する。これを見ると、 分散はどれも大きくは違わないので、分布全体をなるべく右側に寄せるように、 𝑥をなるべく小さくしたほうが 好ましい ように見える。実際、上記の対数正規分布𝑥に対する平均、中央値、最頻値の変化は下記のようになる。横軸は𝑥の値、縦軸は平均、中央、最頻値である。

 

 

グラフ見ると、𝑥が小さくなるにつれて中央値と最頻値はだんだん大きくなっている。平均は𝑥が小さくなると小さくなるが、下がり方はわずかである。さらに、三つの値は𝑥が 0に近づくにつれて 1 つの値 (0.05 くらい)に収束していくように見える。却って確率分布のグラフをみると、𝑥が小さくなるにつれて分布は左右対称になり、普通の正規分布の形に近づいているように見える。正規分布なら、平均、中央値、最頻値は同じ値になる。

全資産を 𝑆_𝐼/𝑥と仮定し、資産の 割合 𝑥を常に賭け ることを繰り返した時の分布は、𝑥→0正規分布になるのではないだろうか。

資産の定率𝑥を賭けるということは、株が上がった場合には資産が 1+(𝑟−1)𝑥倍 、下がった場合には 1+(1/𝑟−1)𝑥倍になるということ で 、その比は 𝑟が 1 に近い場合は 1 に近づく。 そして、仮想的な全資産 𝑆_I/𝑥は 𝑥を 0 に近づ ける と 非常に大きな値になる ため、株価が上がっても下がっても次回 の賭け金である「全資産に𝑥を 賭け た値 」は毎回 𝑆に近い値になるはずである。

 

𝑥を 0 に近づけること は、「 資金は無限にあるとして、初期に𝑆_𝐼円分の株を買い、その後下がったら下がっただけ買い足し、上がったら上がっただけ売って、常に株の資産を 𝑆_𝐼円に保つように売買する」ことを意味する のではないか 。そう仮定して、この分布を求めてみる。

 

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