分散を広げないためには、の大きい株は少量、小さい株は多く持ち、さらに値動きの異なる複数の株を持ってポートフォリオを構築すればよい。「極限の正規分布」について、1-4、1-5節と同様に、複数の資産で分散を合わせてポートフォリオを作ることを考える。
分散を合わせる
正規分布の場合、株を倍持てば、平均は 倍、分散は 倍(標準偏差は 倍)になる。
の異なる 種類の株の資産を当初 それぞれ 持 つとし、期間の終了時に上がっていれば上がった分を売り、下がっていれば買い増して次の期間の始めに各株の資産が常に になるようにすると、 日後の分布はそれぞれ
になる。これらの 分散を に合わせるとすると
となる。その後、1-4節と同様に計算して、全資産をとすると、 は
となる。番目の と 番目の の比は
だから、各資産を に反比例した量を持てばよいことがわかる。
今、、 、 のとき、 の場合、上の方法で計算すると、 、 、 となる。 1 日に 1% 、3% 、5% 動く株は 65% 、 22% 、 13% の 比率で持てば 、各資産の変動が同じになる。この時の、各資産の (1 年後)の分布をグラフに描くと下記のようになる。横軸は からのずれで合わせている。
極限の正規分布ではが大きいほど平均が大きくなるが、分散をそろえるよ うに を調整した後でも、 が大きいほうが平均が高くなっている。変動の小さな株に多額を投資するより、変動の大きな株に少額を投資するほうが利益の期待値は大きくなることがわかる。
ポートフォリオの分散
極限の分布は対数正規分布ではなく正規分布だから、複数の株に投資した場合の分散を1-5節で見たのと同様に考えることができる 。すなわち、分散 の 個の資産を合計した資産の分散 は、各資産が完全相関であれば、
無相関であれば、
となる。各資産が無相関で、上記のように資産配分して分散を に 合わせた場合、ポートフォリオの分散 は になる 。完全相関であればだから、無相関の場合は完全相関に比べて、 分散が になる(標準偏差は になる)。 、 、 の場合に、この様子をグラフに書いたものが下の図である。横軸は からのずれに合わせている(極限の正規分布は平均が に依存するが、各資産の がすべて 1.02 で等しい特別な場合を想定)。
上のグラフを見ると、資産を分散するにつれて分布が細くなるのは当然だが、 この分布は平均値がプラスなので、 分布が細くなるにつれて、分布の、 𝑦軸より右側にある面積(勝率)が多くなるように見える。
実際にそれを計算すると 下の表 のようになる 。
無相関資産数 |
1資産 |
2資産 |
4資産 |
8資産 |
0.31 |
0.22 |
0.16 |
0.11 |
|
勝率 |
0.56 |
0.59 |
0.62 |
0.67 |
1資産では 0.56 だった勝率が、無相関 8 資産に分散投資すると 0.67 に上がり、さらに標準偏差は約 3 分の 1 になる。これはかなり好ましい結果といえるのではないだろうか。