3-7 極限の正規分布の分散とポートフォリオ

分散を広げないためには、𝑟の大きい株は少量、小さい株は多く持ち、さらに値動きの異なる複数の株を持ってポートフォリオを構築すればよい。「極限の正規分布」について、1-4、1-5節と同様に、複数の資産で分散を合わせてポートフォリオを作ることを考える。

 

分散を合わせる

正規分布の場合、株を𝑎倍持てば、平均は 𝑎倍、分散は 𝑎^2倍(標準偏差𝑎倍)になる。

𝑟の異なる 𝑘種類の株の資産を当初 それぞれ 𝑎_𝑖𝑆_𝐼持 つとし、期間の終了時に上がっていれば上がった分を売り、下がっていれば買い増して次の期間の始めに各株の資産が常に 𝑎_𝑖𝑆_𝐼になるようにすると、 𝑛日後の分布はそれぞれ

𝑁\left(𝑎_𝑖𝑆_𝐼\left[1+\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{2}\left(𝑟_𝑖+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑖}−2\right)\right] , \genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑎_𝑖^2𝑆_𝐼^2}{4}\left(𝑟_𝑖−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑖}\right)^2\right)

になる。これらの 分散を 𝜎_𝑐^2に合わせるとすると

𝜎_𝑐^2=\genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑎_𝑖^2𝑆_𝐼^2}{4}\left(𝑟_𝑖−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑖}\right)^2

𝑎_𝑖=\genfrac{}{}{}{0}{2𝜎_𝑐}{𝑆_𝐼\sqrt{𝑛}\left(𝑟_𝑖−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑖}\right)}

となる。その後、1-4節と同様に計算して、全資産を𝑊とすると、 𝑎_𝑖

 

𝑎_𝑖=\genfrac{}{}{}{0}{𝑊}{𝑆_𝐼\left(𝑟_𝑖−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑖}\right)\left(\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_1−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_1}}+⋯+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑘−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑘}}\right)}

 

となる。𝑖番目の 𝑎_𝑖𝑗番目の 𝑎_𝑗の比は

\genfrac{}{}{}{0}{𝑎_𝑗}{𝑎_𝑖}=\genfrac{}{}{}{0}{𝑟_𝑖−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑖}}{𝑟_𝑗−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑗}}

だから、各資産を𝑟_𝑖−1/𝑟_𝑖 に反比例した量を持てばよいことがわかる。

 

今、𝑆_𝐼=1𝑊=1、 のとき、 𝑟=1.01, 1.03, 1.05の場合、上の方法で計算すると、 𝑎1=0.65𝑎2= 0.22𝑎3= 0.13 となる。 1 日に 1% 、3% 、5% 動く株は 65% 、 22% 、 13% の 比率で持てば 、各資産の変動が同じになる。この時の、各資産の 𝑛=250(1 年後)の分布をグラフに描くと下記のようになる。横軸は 𝑎_𝑖𝑆_𝐼からのずれで合わせている。

 

 

極限の正規分布では𝑟, 𝑛が大きいほど平均が大きくなるが、分散をそろえるよ うに 𝑎_𝑖を調整した後でも、 𝑟が大きいほうが平均が高くなっている。変動の小さな株に多額を投資するより、変動の大きな株に少額を投資するほうが利益の期待値は大きくなることがわかる。

 

ポートフォリオの分散

極限の分布は対数正規分布ではなく正規分布だから、複数の株に投資した場合の分散を1-5節で見たのと同様に考えることができる 。すなわち、分散 𝜎_1^2, 𝜎_2^2, …, 𝜎_𝑘^2𝑘個の資産を合計した資産の分散 𝜎_𝑊^2 は、各資産が完全相関であれば、

𝜎_𝑊^2=(𝜎_1+𝜎_2+⋯+𝜎_𝑘)^2

無相関であれば、

𝜎_𝑊^2=𝜎_1^2+𝜎_2^2+⋯+𝜎_𝑘^2

となる。各資産が無相関で、上記のように資産配分して分散を 𝜎_𝑐^2に 合わせた場合、ポートフォリオの分散 𝜎_𝑊^2𝑘𝜎_𝑐^2になる 。完全相関であれば𝜎_𝑊^2=(𝑘𝜎_𝑐)^2だから、無相関の場合は完全相関に比べて、 分散が 1/𝑘になる(標準偏差1/\sqrt{𝑘}になる)。 𝑆_𝐼=1𝑟=1.02𝑛=250の場合に、この様子をグラフに書いたものが下の図である。横軸は 𝑆_𝐼からのずれに合わせている(極限の正規分布は平均が 𝑟に依存するが、各資産の 𝑟がすべて 1.02 で等しい特別な場合を想定)。

 

 

上のグラフを見ると、資産を分散するにつれて分布が細くなるのは当然だが、 この分布は平均値がプラスなので、 分布が細くなるにつれて、分布の、 𝑦軸より右側にある面積(勝率)が多くなるように見える。

実際にそれを計算すると 下の表 のようになる 。

無相関資産数

1資産

2資産

4資産

8資産

標準偏差

0.31

0.22

0.16

0.11

勝率

0.56

0.59

0.62

0.67

 

1資産では 0.56 だった勝率が、無相関 8 資産に分散投資すると 0.67 に上がり、さらに標準偏差は約 3 分の 1 になる。これはかなり好ましい結果といえるのではないだろうか。

 

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