バリュー平均法の確率分布の導出

1期間でr倍か1/r倍になる株を最初S円分持っていて、毎期の終わりに株価が上がった場合は上がった分だけ売却し、下がった場合は株を買い増して、次の期間の初めには株資産が常にSになるように売買を繰り返した時の、𝑛期間経過後の資産の分布は、3-6章で述べた通り、正規分布

N\left(S\left[1+\genfrac{}{}{}{0}{n}{2}\left(r+\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}-2\right)\right],\genfrac{}{}{}{0}{nS^2}{4}\left(r-\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}\right)^2\right)

となる。これがn=1でも成り立っているとする。すなわち「初期値Sの資産が1期間で𝑟倍か1/𝑟倍になった後、上がったら上がった分を売却して現金化し、下がったら下がった分を買い足して資産をSにする」、という操作を行った結果の合計資産を、正規分布

N\left(S\left[1+\genfrac{}{}{}{0}{1}{2}\left(r+\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}-2\right)\right],\genfrac{}{}{}{0}{S^2}{4}\left(r-\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}\right)^2\right)

にしたがうと考える。すると「初期値Sからの損益」の分布は、この分布の平均を だけ左にずらした正規分布

N\left(\genfrac{}{}{}{0}{S}{2}\left(r+\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}-2\right),\genfrac{}{}{}{0}{S^2}{4}\left(r-\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}\right)^2\right)

 

となる。この正規分布を見やすくするため、

N\left(SA,S^2 B^2\right)

と書く。

以下、バリュー平均法で1期間に増やす資産額をSとして、時間の経過に沿って資産の動きを考える。

第1期の損益は、今見た通り、正規分布

N\left(SA,S^2 B^2\right)

にしたがって広がった値のうちの1つの実現値となる。

 

第2期目の始めには、バリュー平均法の操作によって、株資産は2Sになっている。

第2期の終りに、この、初期値2Sの資産から得られる損益は、同様に考えて、

N\left(2SA,4S^2 B^2\right)

なので、第2期終了時点での総損益は、第1期分と合わせて、

N\left(SA,S^2 B^2\right)+N\left(2SA,4S^2 B^2\right)

となる(2つの、正規分布にしたがって広がった値の和、という意味)。

第3期目の始めには、バリュー平均法の操作によって、株資産は3Sになっている。

 

これを繰り返すと、第n期終了時には損益の累計は

N\left(SA,S^2B^2\right)+N\left(2SA,4S^2B^2\right)+N\left(3SA,9S^2B^2\right)+\dotsm+N\left(nSA,n^2S^2B^2\right)

となるが、各期の結果は独立だから、正規分布の再生性

N(\mu_1,\sigma_1^2)+N(\mu_2,\sigma_2^2)=N(\mu_1+\mu_2,\sigma_1^2+\sigma_2^2)

から、

\displaystyle =N\left(SA\sum_{k=1}^{n}k, S^2B^2\sum_{k=1}^{n}k^2\right)

となる。ABを元に戻して、シグマの公式を適用すると、

=N\left(S\left(r+\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}-2\right)\genfrac{}{}{}{0}{n(n+1)}{4}, S^2\left(r-\genfrac{}{}{}{0}{1}{r}\right)^2\genfrac{}{}{}{0}{n(n+1)(2n+1)}{24}\right)

となる。これがバリュー平均法の損益の確率分布である。

 

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