𝑢倍か 𝑑倍の連続分布の評価
すでに求めたとおり、「連続化した倍か 倍の確率分布 」は対数正規分布
になる。この対数正規分布の平均、分散 を先に挙げた公式から計算すると、
となる。またこの対数正規分布の中央値は、
最頻値は、
である。
この分布を決定するためには、を 決定し なければならないが と は自明)、実際の株価の動きからこれを正確に決定することは困難である。そこで、定額の時と同様に、ここからは、
, (ただし)
という仮定を置くことにする。株価が上がるか下がるかは五分五分、上がるときは
倍、下がるときは 倍になる(変動 率 は同じ)、という中立の仮定である。これらを
に代入すると、「 倍か 倍の連続分布」は、対数正規分布
となり、かなり簡単になる。
定義に従って計算すると、この分布の平均、分散、中央値、最頻値は 下記
のようになる。
平均 |
|
分散 |
|
中央値 |
|
最頻値 |
の値が大きいほど平均と分散は大きくなり、逆に最頻値は小さくなる。 中央値は常にである。
さてここで比較のために、 この正規分布の 元 になった1-6節の 離散分布についても
, (ただし )
の仮定を導入する。これらの値を代入すると、もとの離散分布は、「 整数値 に対して横軸の値
に対して確率
をとる分布」になる。 この分布の平均、分散、中央値、最頻値は下記のようになる。 平均と分散は1-6 で求めた式にに代入して計算可能である。中央値と最頻値は自明でとなる。
平均 |
|
分散 |
|
中央値 |
|
最頻値 |
この分布を、近似する対数正規分布と比較する。
上のグラフは、「初期値1000 円、 1 日に 1/2 の確率で 50 円上がるか、 50 円下がる 株 𝑝=𝑞=12,𝑢=𝑑=50 」(白四角)と、
「初期値1000 円、 1 日に 1/2 の確率で 1.05 倍になるか、 1/1.05 倍 になる 株()」(青丸)の離散分布、さらにそれ を連続化した対数正規分布 を 1 つのグラフに書いたものである。期間は 1 年後 を想定して 、 (日) としている。 グラフの形の違いをはっきりさせるために極端な値を用いているが、 1 日に 平均 5% 価格が上下するような株がもしあれば、 1年後には 株価はこれくらいの広がりになる。 離散分布(左軸)がグラフの高さで確率を表現するのに対して、対数正規分布( 右軸)は区間の面積で確率を表現するため、縦軸のスケールが異なる。
「50 円上がるか、 50 円下がる」とした 定額の 分布の場合、株価がマイナスになる領域にまで確率が広がっており、 がこの程度(1.05, 250)まで大きくなれば 定額の モデル は 不適切であることがわかる。 その問題点を修正するために、 「 1.05 倍になるか、 1/1.05 倍になる」という「定率の」 離散分布 を導入した。 定率の場合も確率がピークになる位置(最頻値)は1000 円で定額の場合と変わらない。 しかし定額の分布と異なり、分布の最小値はゼロで、ピークからプラス方向には定額の場合よりも厚く長く裾を引いた分布になる。この分布を線でつないだものをそのまま (連続 確率分布としてもよさそうだが、そうはできない。これは離散分布なので、各点の確率を合計すれば1になるが、グラフの面積( 0 から ∞までの積分)は1より大きくなってしまい、確率分布とはならない。
あくまでも、この「定率の離散分布」を連続分布化した分布は、黒実線の対数正規分布である。
計算すると、この対数正規分布の平均は1347 、 最頻値は 551 となる。最頻値 は 定率の離散分布のピーク 1000 円よりも小さくなっている。 これは次のように考えることができる。
離散分布の確率値は確率変数(株価)がとりうる各点でしか意味を持たないのに対し、対数正規分布の値は 横軸の一点では意味を持たず、その近傍 の 範囲で積分した値が確率になる。対数正規分布では、横軸の一点で見た場合の確率は、離散分布が示す通り値が の時に最大となるが、ある点の周りの「範囲」で見たときに、その範囲に結果が 入る確率 (確率の「密度」) は、横軸 の点 よりもそれより少し左側の点で最大となるのである。これは正規分布の定義域 が に変換されているための効果である。元の正規分布は平均からマイナス方向に遠く離れると急激に値が減少するため、最終的には対数正規分布も で値もゼロに近づくが、その効果と釣り合って、 の点で確率密度関数が最大となるのである。逆に、横軸がプラスの領域では定義域が 引き延ばされる効果が働いて、対数正規分布の密度関数は元の離散分布よりも急激に減少する。 「定率の離散分布」とそれを連続分布化した対数正規分布はこのように確率密度関数の形は異なるが、累積分布関数の形は、下のグラフの通りほぼ 完全に 一致する。
また、「定率の離散分布」とそれを連続化した対数正規分布で、最頻値は上に見たようにかなり異なるが、平均、分散、中央値は一致する。平均、分散については 、が小さいとき 、
(平均)
(分散)
の関係は非常によく成り立つ。𝑆=1000,𝑛=250,𝑟=1.05であれ ば下記のようになる。
(平均)
(分散)