2- 2 定率を賭ける(ケリー基準)

実は、賭け(2)が期待値で(1)を上回るにもかかわらず成長率が負になってしまうのは、「資産の全額を繰り返し賭ける」という点が原因になっている。

より効率の良い方法の一つとして、 資産の全額ではなく、 毎回資産の一定比率を賭けることを考える。

全資産𝑋のうち比率 𝑥 (0\lt 𝑥\leq 1)を掛けた金額を毎回賭けるとすると、

「賭け金が確率𝑝_𝑘𝑟_𝑘倍になる」

という賭けは、資産全体から見れば

𝑋から賭け金 𝑥𝑋が引かれ、賞金 𝑥𝑋𝑟_𝑘が加わることが確率 𝑝_𝑘で起きる」

ということだから、

「確率𝑝_𝑘で資産が 𝑋−𝑥𝑋+𝑥𝑋𝑟_𝑘 になる」すなわち
「確率𝑝_𝑘で資産が 𝑋\{1+(𝑟_𝑘−1)𝑥\} になる」すなわち
「確率𝑝_𝑘で資産が \{1+(𝑟_𝑘−1)𝑥\}倍 になる」

ということである。よってこの場合成長率を最大化する問題は、𝑥を変化させたとき\{1+(𝑟_𝑘−1)𝑥\} の対数期待値を最大化する問題と考えることができる。

𝑥 の関数としての \{1+(𝑟_𝑘−1)𝑥\} の対数期待値 を 𝑀(𝑥)とすると、

𝑀(𝑥)=𝑝_1\log\{1+(𝑟_1−1)𝑥\}+𝑝_2\log\{1+(𝑟_2−1)𝑥\}+⋯+𝑝_𝑚\log\{1+(𝑟_𝑚−1)𝑥\}

なので、𝑀(𝑥)の一般項の一階微分

\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}[𝑝_𝑘\log\{1+(𝑟_𝑘−1)𝑥\}]=\genfrac{}{}{}{0}{𝑝_𝑘}{𝑥+\genfrac{}{}{}{0}{1}{(𝑟𝑘−1)}}

二階微分

\genfrac{}{}{}{0}{𝑑^2}{𝑑𝑥^2}[𝑝_𝑘\log\{1+(𝑟_𝑘−1)𝑥\}]=−\genfrac{}{}{}{0}{𝑝_𝑘}{\left\{𝑥+\genfrac{}{}{}{0}{1}{(𝑟_𝑘−1)}\right\}^2}

となる。𝑀の二階微分は分母分子が正で全体にマイナスがついているので、各項が必ず負になる。よって 𝑀(𝑥)のグラフは上に凸である。

したがって、𝑀(𝑥)の一階微分をゼロと置いた方程式

\displaystyle \genfrac{}{}{}{0}{𝑑𝑀}{𝑑𝑥}=\sum_{k=1}^{m}\genfrac{}{}{}{0}{𝑝_𝑘}{𝑥+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟_𝑘−1}}=0

を解けば、𝑀(𝑥)を最大化する 𝑥 を求めることができる。 この 𝑥は「ケリー基準」とか「ケリールール」と呼ばれるものである*1。 この式は 𝑥についての (𝑚−1)次方程式になるので、高次の場合はには解析的には解けず、数値計算して解を求めることになる。

 

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*1:

上の例で𝑚=2, 𝑟_1=1+𝐵, 𝑟_2=0, 𝑝_1=𝑃, 𝑝_2=1−𝑃とおくと、「確率 𝑃で賭け金が 1+𝐵倍になり、負ければ掛け金をすべて失う」という賭けになり、このとき\frac{𝑑𝑀}{𝑑𝑥}=0の解を 𝑓とすると、

𝑓=\genfrac{}{}{}{0}{𝑃(𝐵+1)−1}{𝐵}

となる。ケリー基準はこの式で知られている。