3-3 .最頻値の最大化

今の仮定の下で、賭け(株式投資)の成長率を最大化するのは毎回資産の1/2 を賭け続けることであることはわかった。そして、資産の成長率を最大化する 𝑥(ケリー基準)は、その資産の確率分布の中央値を最大化するものであることはすでに述べた。

では、確率分布の平均値や最頻値を最大化する 𝑥は存在しないだろうか。

 

まず平均値については、0\leqq𝑥\leqq1の範囲で平均値 \exp\left[\mu+\sigma^2/2\right]は単調増加となり、 𝑥=1のとき最大となる。つまり毎回全額賭けである。繰り返し賭けを行う場合にこの方法が適切でないことはすでにみたとおりである。


最頻値を最大化する(分布のグラフで、山のピークを最も右にずらす)𝑥は存在する。 これを「確率pu倍、確率qd倍になる賭けに初期資産 𝑆_0の割合 𝑥を繰り返し賭け続けた場合の 𝑛期間後の資産の確率分布」

𝐿𝑁(𝜇,𝜎^2)=𝐿𝑁\left(\log𝑆_0+𝑛\log\left\{\left[1+(𝑢−1)𝑥\right]^𝑝\left[1+(𝑑−1)𝑥\right]^𝑞\right\} , 𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+(𝑢−1)𝑥}{1+(𝑑−1)𝑥}\right)^2\right)

から計算してみる。

対数正規分布の最頻値は \exp(𝜇−𝜎^2)で与えられるので、これを最大化するには𝜇−𝜎^2を最大化すればよい。 𝑢−1=𝐴𝑑−1=𝐵とおくと、

𝜇−𝜎^2=\log𝑆_0+𝑛\log\left[(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^𝑞\right]−𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)^2

なので、𝜇𝜎^2を別々に微分する。 𝜇微分

\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}𝜇=\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}\left\{\log𝑆_0+𝑛\log\left[(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^𝑞\right]\right\}

=\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^𝑞}\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}\left[(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^𝑞\right]

=\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^𝑞}\left[𝑝(1+𝐴𝑥)^{𝑝−1}𝐴(1+𝐵𝑥)^𝑞+(1+𝐴𝑥)^𝑝𝑞(1+𝐵𝑥)^{𝑞−1}𝐵\right]

𝑝+𝑞=1だから、

=\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^𝑞}\left[𝑝𝐴(1+𝐴𝑥)^{−𝑞}(1+𝐵𝑥)^𝑞+𝑞𝐵(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^{−𝑝}𝐵\right]

 =\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{(1+𝐴𝑥)^𝑝(1+𝐵𝑥)^𝑞}\left[𝑝𝐴\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐵𝑥}{1+𝐴𝑥}\right)^𝑞+𝑞𝐵\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)^𝑝\right]

 =\genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑝𝐴}{1+𝐴𝑥}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑞𝐵}{1+𝐵𝑥}

𝜎^2微分

\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}𝜎^2=\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)^2

=2𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)

=2𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐵𝑥}{1+𝐴𝑥}\right)\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}

=2𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐵𝑥}{1+𝐴𝑥}\right)\genfrac{}{}{}{0}{𝐴(1+𝐵𝑥)−𝐵(1+𝐴𝑥)}{(1+𝐵𝑥)^2}

=2𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝐴}{1+𝐴𝑥}−\genfrac{}{}{}{0}{𝐵}{1+𝐵𝑥}\right)

したがって最頻値の微分は、

\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}(𝜇−𝜎^2)=\genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑝𝐴}{1+𝐴𝑥}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑞𝐵}{1+𝐵𝑥}−2𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝐴}{1+𝐴𝑥}−\genfrac{}{}{}{0}{𝐵}{1+𝐵𝑥}\right)

これをゼロとおくと、

\genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑝𝐴}{1+𝐴𝑥}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑛𝑞𝐵}{1+𝐵𝑥}−2𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝐴}{1+𝐴𝑥}−\genfrac{}{}{}{0}{𝐵}{1+𝐵𝑥}\right)=0

分母を払い、𝑝+𝑞=1を使って整理すると、

𝑝𝐴+𝑞𝐵+𝐴𝐵𝑥−2𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)\left(𝐴−𝐵\right)=0

この方程式を満たす𝑥が最頻値を最大化する。この式はこれ以上簡単にはならないので、近似「 𝛼が小さいとき \log(1+𝛼)\approx 𝛼」を使う。( 𝐴𝑥=(𝑢−1)𝑥, 𝐵𝑥=(𝑑−1)𝑥は現実的な株の場合は 0 に近い値になる。)このとき方程式は、

𝑝𝐴+𝑞𝐵+𝐴𝐵𝑥−2𝑝𝑞\left[\log(1+𝐴𝑥)−\log(1+𝐵𝑥)\right](𝐴−𝐵)=0

𝑝𝐴+𝑞𝐵+𝐴𝐵𝑥−2𝑝𝑞(𝐴𝑥−𝐵𝑥)(𝐴−𝐵)=0

となり、解は

𝑥=\genfrac{}{}{}{0}{𝑝𝐴+𝑞𝐵}{2𝑝𝑞(𝐴−𝐵)^2−𝐴𝐵}=\genfrac{}{}{}{0}{𝑝(𝑢−1)+𝑞(𝑑−1)}{2𝑝𝑞(𝑢−𝑑)^2−(𝑢−1)(𝑑−1)}

となる。

中央値の場合と同様に

𝑝=𝑞=\genfrac{}{}{}{0}{1}{2} , 𝑢=𝑟 , 𝑑=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟} , (ただし𝑟\gt1)

という仮定を行うと、

𝐴𝐵=(𝑟−1)\left(\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}−1\right)=2−𝑟−\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}=−(𝐴+𝐵)

だから、最頻値を与える最頻値を与える𝑥は、

𝑥=\genfrac{}{}{}{0}{𝑝𝐴+𝑞𝐵}{2𝑝𝑞(𝐴−𝐵)^2−𝐴𝐵}=\genfrac{}{}{}{0}{𝐴+𝐵}{(𝐴−𝐵)^2−2𝐴𝐵}=\genfrac{}{}{}{0}{𝐴+𝐵}{(𝐴+𝐵)^2−6𝐴𝐵}=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝐴+𝐵+6}

=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}+4}

となる。𝑟が 1 に近い値であれば 𝑟+1/𝑟は 2 に近い値になるので、最頻値を与える 𝑥は、現実には𝑟にあまり関係なく 1/6 =0.17 程度になる。分布の最頻値を最大化するには、全資産の 17%を賭け続けるのが最良である。

 

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