3-2 𝑟倍か 1/𝑟倍

ここからは、第1章でも採用した、「株価が上がるか下がるかは五分五分、上がるときは 𝑟倍、下がるときは 1/𝑟倍になる(変動率は同じ)」という中立の仮定、

𝑝=𝑞=\genfrac{}{}{}{0}{1}{2},  𝑢=𝑟,  𝑑=\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟} , (ただし 𝑟\gt1)

という仮定を再度導入する。すなわち、株式投資を、

「賭け金が 1/2 の確率で 𝑟倍になり、 1/2 の確率で 1/𝑟になる」

ゲームだと考えて、最適な賭け金比率を検討する。

毎回定率を賭ける場合に成長率を最大化する𝑥は、勝率に敏感であることはすでに述べたとおりである。それにもかかわらず 勝率 を 大雑把に 1/2 と仮定する のは「上がるか 下がるかわからないのだから五分五分」という消極的な理由 によるもので あるが、意図的に有利でも不利でもない仮定なので、受け容れて考察を進めることにする。尚 、こう仮定した場合、株価の相乗平均は \sqrt{(𝑟\cdot1/𝑟)}=1とな る。

この場合、賭けの 期待値

\genfrac{}{}{}{0}{𝑟+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}}{2}

は必ず1よりも大きくなる。期待値はプラスなので成長率をプラスにする条件は満たしている。
資産の比率𝑥を毎回賭け続けた時の 𝑛期間後の確率分布は、 1-7節 の式

𝐿𝑁(\log 𝑆_0+𝑛\log(𝑢^𝑝𝑑^𝑞), 𝑛𝑝𝑞(\log\frac{𝑢}{𝑑})^2)

𝑝=𝑞=1/2𝑢=1+(𝑟−1)𝑥𝑑=1+(\frac{1}{𝑟}−1)𝑥を代入して、

𝐿𝑁\left(\log 𝑆_0+\genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{2}\log\left\{ \left[1+\left(𝑟−1\right)𝑥\right] \left[1+\left(\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}−1\right)𝑥\right]\right\},  \genfrac{}{}{}{0}{𝑛}{4}\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+(𝑟−1)𝑥}{1+(\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}−1)𝑥}\right)^2\right)

となる。ケリー基準でこの賭けを最大化する毎回の掛け金比率𝑥を計算すると、

𝑥=−\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝑝}{𝑑−1}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑞}{𝑢−1}\right)

=−\left(\genfrac{}{}{}{0}{\frac{1}{2}}{\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑟}−1}+\genfrac{}{}{}{0}{\frac{1}{2}}{𝑟−1}\right)

=−\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝑟}{2(1−𝑟)}+\genfrac{}{}{}{0}{1}{2(𝑟−1)}\right)

=−\left(\genfrac{}{}{}{0}{−𝑟}{2(𝑟−1)}+\genfrac{}{}{}{0}{1}{2(𝑟−1)}\right)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{2}

となり、計算の過程で𝑟が消えてしまい、 𝑟によらずに 𝑥=1/2となる。 資産が確率 1/2 で 𝑟倍か 1/𝑟倍になるとき、 𝑟に関係なく、常に資産の半額を賭け続けることが成長率を最大化する。

 

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