1- 6 .株価の (定率 的) 二項モデル-1 𝑢倍か 𝑑倍の資産の確率分布

1期間で 株価が 𝑢倍か 𝑑倍になる場合 の 𝑛期間経過後の 株価の 確率分布、平均、分散を求める。

初期値𝑆_0の 株価 が 確率 [tex:𝑝𝑢倍になり、確率 𝑞=1−𝑝𝑑倍になるとする。

株価の時間発展を 3 期間後まで書くと下図のようになる。 𝑛は期間、 𝑖𝑛期間のうち上昇した回数(下落は 𝑛−𝑖回)である。

 

 

この(離散)確率分布について考える。
𝑛=3のときを例にとると、 𝑖=0,1,2,3 が起きる確率は二項分布する。 二項分布だから、一般に期間 𝑛では 確率は、

_nC_ip^{i}q^{(n-i)}

である。一方株価は二項分布の0 ,1,2,3 ではなく 𝑆_0𝑑^3, 𝑆_0𝑢𝑑^2, 𝑆_0𝑢^2𝑑, 𝑆_0𝑢^3 で、 𝑆_0𝑢^𝑖𝑑^{3−𝑖}と な る。 一般には

𝑆_0𝑢^𝑖𝑑^{𝑛−𝑖}

である。とりうる値 (𝑥軸) と確率( 𝑦軸) がわかったので 分布はこれで決定した。 この確率分布は、二項分布 𝐵(𝑛,𝑃)𝑥軸上の値が 0,1,2,3,...,𝑛の代わりに 𝑆_0𝑢^𝑖𝑑^{𝑛−𝑖}としたものである。

 

次にこの分布の期待値を計算する。期待値 𝑚 は 、確率 と値を かけ て足し合わせればよいから、

 

\displaystyle m=\sum_{i=0}^nS_0u^id^{n-i}\ _nC_ip^iq^{n-i}

\displaystyle   =S_0\sum_{i=0}^n(pu)^i(qd)^{n-i}\ _nC_i

 

である。シグマの部分は (𝑝𝑢+𝑞𝑑)^𝑛 の二項展開*1になっているので、結局平均は
𝑚=𝑆_0(𝑝𝑢+𝑞𝑑)^𝑛
になる。𝑝𝑢+𝑞𝑑\gt1であれば、 𝑛とともに期待値は指数関数で増えていく。

次に分散を求める。一般に確率変数𝑋の分散 𝜎^2は、 𝑋 の期待値を 𝐸(𝑋) として、

𝜎^2=𝐸(𝑋^2)−(𝐸(𝑋))^2

で求められる。𝐸(𝑋)=𝑚 で計算済みだから、 𝐸(𝑋^2) を計算する。 𝑋^2 の一般項は (𝑆_0𝑢^𝑖𝑑^{𝑛−𝑖})^2 なので、

 

\displaystyle 𝐸(𝑋^2)= \sum_{i=0}^n(𝑆_0𝑢^𝑖𝑑^{𝑛−𝑖})^2\ _𝑛𝐶_𝑖𝑝^𝑖𝑞^{𝑛−𝑖} = 𝑆_0^2\sum_{i=0}^n(𝑝𝑢^2)^𝑖(𝑞𝑑^2)^{𝑛−𝑖}\ _n𝐶_𝑖

 

期待値の場合と同様に、最右辺のシグマの部分は(𝑝𝑢^2+𝑞𝑑^2)^𝑛 の二項展開なので、

𝐸(𝑋^2)=𝑆_0^2(𝑝𝑢^2+𝑞𝑑^2)^𝑛

となり、結局分散𝜎^2


𝜎^2=𝐸(𝑋^2)−(𝐸(𝑋))^2=𝑆_0^2[(𝑝𝑢^2+𝑞𝑑^2)^𝑛−(𝑝𝑢+𝑞𝑑)^2𝑛]

となる。

下のグラフは、「1000 円の株が 1 期間後に 1/2 の確率で 10 円上がるか 10 円下がる」場合と、「 1.01 倍になるか 1/1.01 =0.99099 倍になる」場合の、 5 期間後と 100 期間後の株価の分布である。 期間が大きくなるほど、定額と定率のずれが大きくなる。 なおどちらの場合も、横軸が 1000 のときに分布は最大値( 中央値)となる。

 

 

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*1:二項展開:(a+b)^n=\sum_{i=0}^na^ib^{n-1}\ _nC_i