1-8定率モデルの 実際の株価への適用

対数正規分布の株価モデルを実際の株に適用することを考える。
これまでと同様、 初期値 𝑆_0、1 日の変化率 𝑟の株の 𝑛日後の株価は

𝐿𝑁( \log 𝑆_0, 𝑛(\log 𝑟)^2 )

に従うと考える 。この分布を決定するためには、過去の株価の値から 𝑟を決めなければならないが、実際の株価は毎日定率で変化することはない。 同じ初期値 𝑆_0を出発点にした 𝑛日後の 株価のデータが多数得られればその分散から 𝑟を決められるが、実際に得られるのは 、高い時も安い時もある 一本の時系列の株価データのみである。そのため、rを決めるために次のような方法をとる。

株価の初期値を𝑆_0とし、1日後、2日後の株価を 𝑆_1, 𝑆_2 ,…とする。 各株価𝑆_𝑘に対し、𝑖日後の株価 𝑆_{𝑘+𝑖} は 、出発点が変わっただけで 𝑟は同じだから。 初期値 𝑆_𝑘の対数正規分布𝐿𝑁( \log𝑆_𝑘,𝑖(\log 𝑟)^2 ) に従うはずである。この分布の分散は、対数正規分布の分散の式から

𝑆_𝑘^2\exp\left[𝑖(\log 𝑟)^2\right]\left(\exp\left[𝑖(\log 𝑟)^2\right]−1\right)

である。ここで「初期値 𝑆_𝑘に対する 𝑖日後の株価 𝑆_{𝑘+𝑖}」 に対して、 両方の値を 𝑆_𝑘で割った「初期値 1 に対する 𝑖日後の株価の比 𝑆_{𝑘+𝑖}/𝑆_𝑘」を考えると、𝑆_{𝑘+𝑖}/𝑆_𝑘の分散は、一般に成り立つ分散の性質

𝑉(𝑎𝑋)=𝑎^2𝑉(𝑋)

(確率変数を𝑎倍したら分散は 𝑎^2倍になる)から、 上の式を 𝑆_𝑘^2で割って、

\exp\left[𝑖(\log 𝑟)^2\right]\left(\exp\left[𝑖(\log 𝑟)^2\right]−1\right)

となる。これは任意の 𝑆_𝑘 について成り立つので、結局、ある期間 𝑖について、現実の株価から 𝑆_{𝑘+𝑖}/𝑆_𝑘の値を 𝑘について 集めて、その分散を 𝑉とし 、rについての方程式

\exp\left[𝑖(\log 𝑟)^2\right]\left(\exp\left[𝑖(\log 𝑟)^2\right]−1\right)=𝑉

を解けば、1日 の 𝑟 を求めることができる。 この式 は \exp[𝑖(\log 𝑟)^2] についての二次方程式 として 解くことができて、最終的に解は、

𝑟=\exp\left[\sqrt{\genfrac{}{}{}{0}{\log\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+\sqrt{1+4𝑉}}{2}\right)}{𝑖}}\right]

となる。

下の例は、定額の場合と同じ実際の株の、 1年分の日足株価について、 1日の𝑟を計算したものである。まず、各日の株価終値について、𝑛=1, 5, 10,15, 20日前の終値との比を計算する。

次に「𝑛日前との株価の 比」の分散Vと上の式から求めた𝑟を計算する。

 

計算の結果求められた𝑟の値は約1.015 から 1.016(平均1.0159) で 、この株価の変動率は 1日に約 1.6% であることがわかる 。2019年12月30日の終値𝑆_0)は 3390 円だから、𝑛=20 (1か月) と したとき、 従う対数正規分布は、

𝐿𝑁(\log 𝑆_0,𝑛(\log 𝑟)^2 )=𝐿𝑁( \log3390, 20(\log1.0159)^2)

=LN(8.128585,0.004972)

となる。対数正規分布の累積確率がある値となる株価は、Excel を使って求めることができるので、定額 の場合と同様に 確率が 95.45% となる区間を計算すると、 12月30 日から 20取引日後の株価の範囲は 2944 円- 3903 円となる。定額 の場合は2922 円-3858 円(平均 3390 円 2𝜎=468 円)となるから、対数正規分布のほうが値幅 がわずかに上にずれる。

なお1 日の𝑟を求める際 、単純に当日と前日の株価を比較して高いほうを安いほうで割りその平均をとればよいように思われるがそうではない。実際に上の例でその方法で計算すると、𝑟=1.011となり、上記の結果よりも少し小さな値になる。

 

ここまで、一日の株価変動が定額の場合と定率の 場合について、株価の動きのモデル化について考えた。定額の場合は、複数の株でポートフォリオを組んだ場合の全体の分散について触れたが、この時に使った公式は正規分布が前提になるため、定率(対数正規分布)の場合は適用できない。

株価の動きは、長期で見れば定額よりは定率的なモデルのほうが現実に近い。

株価の動きが定率的であるとすると、 上昇する 可能性 が下落する 可能性 よりも高くなる( 1/2 になる確率と 2 倍になる確率が同じ。このとき期待値 1.25 )ため、 株価は本質的に上昇する性質を持っていることになる。この 性質だけを使って利 益を最大化するような 売買の方法 はないだろうか。

次章からしばらくは、対数期待値の最大化(ケリー基準)について述べる。 その後、この章で求めた株価変動の性質を使って、利益を最大化する方法を考える。

 

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