1-2. 株価の分布の正規近似 - 2

株価の分布の正規近似

二項分布は正規分布で近似できるが、先に述べたような「1000 円の株が 1/2 の確率で 10 円下がるか 10 円上がる」株価の分布を正規分布で 表すにはどうすればよいか 。これを考える。

 

ここからは、問題を一般化して、「最初 S_0円の株価が、 1 期間で 確率 𝑝𝑢円上がり、確率 q=1−pd円下がる」という場合に、 n期間後の 株価 Sがどうなるかを考える。n=3までの株価の動きを示したのが下の図である。

 

n期間のうち 株価が上昇した期間数(二項分布の「表が出る回数」 に相当)を i回 とすると、iは試行回数n、確率pの二項分布B(n,p)に従う。 二項分布は nが大きいとき 平均 np、分散npq正規分布で近似できる。

B(n,p)≈N(np,npq)

である。

平均\mu、分散\sigma^2正規分布 N(\mu,\sigma^2)確率密度関数は、定義に従って、

f(X)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp\left[-\genfrac{}{}{}{0}{\left(X-\mu\right)^2}{2\sigma^2}\right]

である。B(n,p)を近似する正規分布 N(np,npq)確率密度関数は、 \mu,\sigma^2に平均 np、分散npq を代入して

f(X)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi npq}}\exp\left[-\genfrac{}{}{}{0}{\left(X-np\right)^2}{2npq}\right]

である。X正規分布の定義域だから(−∞,∞)の 範囲の 実数である。近似の結果として、とびとびの整数値であるiは連続値であるXに変わっている。

一方、今求めようとしている株価の分布では、株価の上昇した期間数を
iとし (下落は n-i回) 、株価 Siの関数S(i)と考えると、 i=0,1,2,…,nに対して、

S(i)=S_0+ui−d(n-i)

=S_0−nd+(u+d)i

と表せる。 したがって求める分布は、 上記の「二項分布を近似する正規分布」 の 定義域X を 、

S(X)=S_0−nd+(u+d)X

に変数変換したものと考えられる 。

この分布を求めるため、次の確率分布の変数変換の公式を使う。

確率変数Xの密度関数をf(X)とするとき、Y=g(X)である確率変数Yの密度関数は、
f(g^{-1}(𝑌))\genfrac{}{}{}{0}{d}{dY}g^{-1}(Y)

である。(ただしg^{-1}(Y)g(X)逆関数
単純に変換した変数を代入するだけであればf(g^{-1}(Y))であるが、それだけでは 不十分 で、[tex:\frac{d}{dY}g^{-1}(Y)を 賭ける 必要がある。
今、変換後の求めたい確率変数は
 
(S(X)=) Y=g(X)=S_0−nd+(u+d)X
 
だから、g(X)を元のXについて解いた関数(逆関数)は、
 
g^{−1}(Y)=X=\genfrac{}{}{}{0}{Y-S_0+nd}{u+d}
 
となり、Y微分すると
 
\genfrac{}{}{}{0}{d}{dY}g^{-1}(Y)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{u+d}
 
だから、求める確率密度関数は(Yの関数 なので 改めてf(Y)と書くと) 、
 
f(Y)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi npq}}\genfrac{}{}{}{0}{1}{u+d}\exp\left[-\genfrac{}{}{}{0}{\left(\genfrac{}{}{}{0}{Y-S_0+nd}{u+d}-np\right)^2}{2npq}\right]
 
となる。これを変形すると、
 
f(Y)=\genfrac{}{}{}{0}{1}{\sqrt{2\pi npq(u+d)^2}}\exp\left[-\genfrac{}{}{}{0}{\left\{Y-S_0-n(pu-qd)\right\}^2}{2npq(u+d)^2}\right]
 
となり、正規分布の密度関数の式と比較するとこれは、平均S_0+n(pu-qd)
分散npq(u+d)^2正規分布
N(S_0+n(pu-qd), npq(u+d)^2)
になっていることがわかる。
「最初S_0円の株価が、 1 期間で確率 pu円上がり、確率 q=1-pd円下がる」場合のn期間後の株価Sは 上記のように 正規分布する ことがわかった 。
 

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