3-1.二項モデルと 対数期待値最大化 の関係

第1章で述べた二項モデルと対数期待値最大化の関係について考える。

「確率𝑝で資金が 𝑢倍、確率 𝑞=1−𝑝𝑑倍」になる賭けに毎回全資産の比率 𝑥を賭け続ける場合に、対数期待値を最大化する 𝑥は、2-3節の式から、

\genfrac{}{}{}{0}{𝑝}{𝑥+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑢−1}}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑞}{𝑥+\genfrac{}{}{}{0}{1}{𝑑−1}}=0

を解いて、

𝑥=−\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝑝}{𝑑−1}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑞}{𝑢−1}\right)

である。一方で、資金が 𝑢倍になる賭けに資産の比率 𝑥を賭ける、ということは、 𝑆の資産が、 賭け金 𝑥𝑆を引いて賞金 𝑥𝑢𝑆が足され 、

𝑆−𝑥𝑆+𝑥𝑢𝑆=𝑆\left[1+(𝑢−1)𝑥\right]

になるということだから、 この賭けは、

「確率𝑝で資産が 1−𝑥+𝑥𝑢=1+(𝑢−1)𝑥倍になり、
確率𝑞で資産が 1−𝑥+𝑥𝑑=1+(𝑑−1)𝑥倍にな る」

ということである。 𝑛回賭けを繰り返した後の資産の分布は、1-7節で求めた対数正規分布

𝐿𝑁\left(\log𝑆_0+𝑛\log(𝑢^𝑝𝑑^𝑞),  𝑛𝑝𝑞\left(\log \genfrac{}{}{}{0}{𝑢}{𝑑}\right)^2\right)

𝑢の代 りに 1+(𝑢−1)𝑥𝑑の代りに 1+(𝑑−1)𝑥を代入して、

𝐿𝑁\left(\log 𝑆_0+𝑛\log\left\{\left[1+(𝑢−1)𝑥\right]^𝑝\left[1+(𝑑−1)𝑥\right]^𝑞 \right\} , 𝑛𝑝𝑞\left(\log\genfrac{}{}{}{0}{1+(𝑢−1)𝑥}{1+(𝑑−1)𝑥}\right)^2\right)

になる。これが、初期値 𝑆_0、資産の割合 𝑥を繰り返し 賭けた場合の 𝑛期間後の 資産の確率分布である。

 

対数正規分布𝐿𝑁(𝜇,𝜎^2) の中央値は1-7節 で述べたとおり、\exp[𝜇]で求められるから、この分布の中央値 は、

𝑆_0\exp\left[𝑛\log\left\{\left[1+(𝑢−1)𝑥\right]^𝑝\left[1+(𝑑−1)𝑥\right]^𝑞 \right\}\right]

である。これを 𝑥の関数とみて、中央値を最大化する 𝑥を求めてみる。

中央値を最大化するには\expの中の

\left[1+(𝑢−1)𝑥\right]^𝑝\left[1+(𝑑−1)𝑥\right]^𝑞

を最大化すればよいから、この式を𝑥微分する。

𝑢−1=𝐴, 𝑑−1=𝐵 とおく と、

\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}\left[1+(𝑢−1)𝑥\right]^𝑝\left[1+(𝑑−1)𝑥\right]^𝑞

=\genfrac{}{}{}{0}{𝑑}{𝑑𝑥}\left[1+𝐴𝑥\right]^𝑝\left[1+𝐵𝑥\right]^𝑞

=𝑝\left[1+𝐴𝑥\right]^{𝑝−1}𝐴\left[1+𝐵𝑥\right]^𝑞+\left[1+𝐴𝑥\right]^𝑝𝑞\left[1+𝐵𝑥\right]^{𝑞−1}𝐵

𝑞=1−𝑝だから、

=𝑝𝐴\left[1+𝐴𝑥\right]^{−𝑞}\left[1+𝐵𝑥\right]^𝑞+𝑞𝐵\left[1+𝐴𝑥\right]^𝑝\left[1+𝐵𝑥\right]^{−𝑝}

=𝑝𝐴\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐵𝑥}{1+𝐴𝑥}\right)^𝑞+𝑞𝐵\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)^𝑝

これをゼロとおいて、極値を与える 𝑥を求める。

𝑝𝐴\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐵𝑥}{1+𝐴𝑥}\right)^𝑞+𝑞𝐵\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)^𝑝=0

𝑝𝐴\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐵𝑥}{1+𝐴𝑥}\right)^𝑞=-𝑞𝐵\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)^𝑝

\genfrac{}{}{}{0}{pA}{-qB}=\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+A𝑥}{1+B𝑥}\right)^p\left(\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}\right)^q

𝑝+𝑞=1だから、

\genfrac{}{}{}{0}{𝑝𝐴}{−𝑞𝐵}=\genfrac{}{}{}{0}{1+𝐴𝑥}{1+𝐵𝑥}

𝑝𝐴(1+𝐵𝑥)=−𝑞𝐵(1+𝐴𝑥)

𝑝𝐴+𝑝𝐴𝐵𝑥=−𝑞𝐵−𝑞𝐴𝐵𝑥

𝑝𝐴+𝑞𝐵=𝐴𝐵(−𝑝−𝑞)𝑥

𝑝+𝑞=1だから、

𝑝𝐴+𝑞𝐵=−𝐴𝐵𝑥

𝑥=\genfrac{}{}{}{0}{−𝑝𝐴+𝑞𝐵}{𝐴𝐵}=−\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝑝}{𝐵}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑞}{𝐴}\right)=−\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝑝}{𝑑−1}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑞}{𝑢−1}\right)

となり、対数期待値を最大化する 𝑥の値と一致する。

ケリー基準で求められる最適賭け金比率は、二項モデルで得られる対数正規分布の中央値を最大化するものであることがわかった 。

 

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