1-3.実際の株価への適用

ここまでで、株価 の広がりが 時間とともにどう 変化して いくか の分布は求められたが、 これは株価を「 1 期間で u円上が るかd円下がる」というモデル化を行って求めたものである。
実際の株価はそのような値動きはしない。 1 日の変動幅は日によって異なるし、 1 時間、1分の間にも 株価は 変化する。 実際の株価にこのモデルを適用する 方法を検討してみる。
「最初S_0円の株価が、1 期間で確率pu円上がり、確率q=1-pd円下がる」場合のn期間後の株価は正規分布

N(S_0+n(pu-qd), npq(u+d)^2)

に従う。この分布を決定するためには、 S_0nは自明として、 p,q,u,dを求めなければならないが、 実際の株価の動きからこれを正確に決定することは困難、ほぼ無理だし、株価変動の本質としてこれらの値は常時一定でもないであろう。そこで「わからないものは五分五分」という消極的な根拠ではあるが、 株価が上がるか下がるかは 確率1/2、上がるときも下がるときも変動額は同じ、という仮定

p=q=\genfrac{}{}{}{0}{1}{2}, u=d

を置く。これらを代入すると、 株価が従う正規分布は、

N(S_0,nd^2)

と非常に簡単になる(変動額はuと書いてもdと書いてもよいが、dとした) 、dを求めれば分布が決まる 。 実際の株価に対してこの分布を求めることを考える。
nの単位を「日」とする。現実の株価の日々の終値に対して、n日前 の終値との差額

今日の終値n日前の終値

の分布は、S_0=0 に相当するから

N(0,nd^2)

になるはずである。すなわち、毎日の「今日の終値n日前の終値」はプラスのこともマイナスのこともあり、値もバラバラになるが、その分散の値をnd^2と考えることができる。 日々の株価ついて「その日の終値n日前の終値」の分散を 計算してそれをVとすると、

V=nd^2

d=\sqrt{\genfrac{}{}{}{0}{V}{n}}

から、dを求めることができる。

下の表は、ある小型株の2019年1年分の日足株価について、1日前-20日前との価格差を一覧にしたものである。

それぞれの「X日前との価格差」について、分散Vd=\sqrt{V/n}を計算すると次のようになる。

計算の結果求められたdの値は 52前後で(平均は52.5)、nによらずにほぼ同じ値となっている 。

dの値が求められたので、株価の分布を確定することができる。nを1か月(約 20 営業日)とすれば、株価の差は

N(0,nd^2)=N(0,20×52.5^2)

に従うと考えられる 。標準偏差\sigma\sqrt{20×52.5^2}=約234 円となるから、正規分布の性質から、株価が 現在よりも \pm468円(2\sigma)の範囲に収まっている確率が 95%になる。

なお、𝑑を求めるのに 単純に 1 日前との差の絶対値を平均するようなことをしても正し い値は得られない。この例では、「 1 日前との差」の絶対値の平均は 36.55 となり、分散から求めた値よりもかなり小さくなる。

 

下のグラフは、この株のn=1, 5, 10, 15, 20 日前との株価の差の実測値の度数分布(ヒストグラム)と、それぞれを近似する正規分布である。度数分布は区間を-1000 円から+1000 円まで 100 円ごとに区切って集計している。両者はよく似た形になっていることがわかる。

 

 

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