1-2. 株価の分布の正規近似 - 3

結果の考察

この結果をもう少し考察してみる。

  • 分布の平均は S_0+n(pu−qd)である。 pu−qdは “確率×値”の和 (株価が下がる場合はマイナス と考える )の形になっていて 、これは1期間後の増減の期待値だから、 n期間後の平均(期待値)は、それを n倍したものになっている 。
  • pu−qdがゼロより大きければ期待値はプラスである。 上がるか下がるか五分五分( p=q=1/2)のとき 、 udより大きければ儲かるのは当然だが、pが 1/2 より小さくても上昇額uが大きければ期待値としては儲かる。 期待値がプラスとなる条件pu−qd\gt0q=1−pを代入して変形すると、
    p\gt\genfrac{}{}{}{0}{d}{u+d}
    となる。たとえば uを 30 円、 dを 10 円とすると、p\gt1/4すなわち 4 回に 1 回以上勝てれば、期待値はプラスである。
  • 元の二項分布の標準偏差\sqrt{𝑛𝑝𝑞}だから、分布の標準偏差\sigma=\sqrt{npq(u+d)}はそれに(u+d)をかけたものになる。
  • p,q,u,dを定数とすると、分布の 標準偏差 \sigma=\sqrt{npq(u+d)}\sqrt{n} に比例する。すなわち、期間が2倍になれば、分布の広がりは\sqrt{2}=約 1.4 倍、 4 倍になれば 2 倍になる。

元の1000 円の株の 問題に 戻って考察する。
上記の結果から、1000 円の株が 1 日後に 1/2 の確率で 10 円上がるか 10 円下がるか 、の場合、 5 日後(n=5)の株価は、S_0=1000p=1/2u=d=10だから、正規分布N(1000,500)に従う。

最初に考えた株価Sの離散分布と、それを近似する正規分布N(1000,500)をグラフに書くと下記のようになる。

 

 

正規分布の確率は横軸の区間積分して得られるので、二項分布のときは幅 1 だった 区間 iの間隔)がこの分布では幅 20(=𝑢+𝑑) に広がっている分、 正規分布のグラフは背が低くなる。離散分布の方は横軸のとびとびの値に対してしか意味を持たず、各確率は二項分布と同じである。両分布一見大きく違うように見えるが、累積分布を比較するとほぼ一致する。 下のグラフは、Sの離散 分布の累積密度関数と、正規分布の累積密度関数を同じグラフに書いたものである。ただし、正規分布は 𝑥+10まで(𝑥=1000のときはx=−∞から 1010 まで)積分した値としている。

 


下のグラフは、同じ株価の分布が、5日後から10、15、20日後まで、どのように広がっていくかを示したものである。日数が経つとともに分布は広がるが、分布の標準偏差\sqrt{𝑛}に比例するため、広がり度合いは最初大きく、だんだん鈍くなっていく。 𝑛=5,10,15,20日に対する標準偏差 𝜎は、22円、32円、39円、45円である。正規分布なので、株価が平均\pm2\sigmaの中にある確率は 95% である。当初 1000 円の株価が、 20 日後 (営業日として約1か月後)には 、910 円と 1090 円の間に ある確率が 95% になる。

 

 

 

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