結果の考察
この結果をもう少し考察してみる。
- 分布の平均は である。 は “確率×値”の和 (株価が下がる場合はマイナス と考える )の形になっていて 、これは1期間後の増減の期待値だから、 期間後の平均(期待値)は、それを 倍したものになっている 。
- がゼロより大きければ期待値はプラスである。 上がるか下がるか五分五分( )のとき 、 がより大きければ儲かるのは当然だが、が 1/2 より小さくても上昇額が大きければ期待値としては儲かる。 期待値がプラスとなる条件 にを代入して変形すると、
となる。たとえば を 30 円、 を 10 円とすると、すなわち 4 回に 1 回以上勝てれば、期待値はプラスである。 - 元の二項分布の標準偏差はだから、分布の標準偏差はそれに)をかけたものになる。
- ,,,を定数とすると、分布の 標準偏差 は に比例する。すなわち、期間が2倍になれば、分布の広がりは約 1.4 倍、 4 倍になれば 2 倍になる。
元の1000 円の株の 問題に 戻って考察する。
上記の結果から、1000 円の株が 1 日後に 1/2 の確率で 10 円上がるか 10 円下がるか 、の場合、 5 日後()の株価は、、 、だから、正規分布に従う。
最初に考えた株価の離散分布と、それを近似する正規分布をグラフに書くと下記のようになる。
正規分布の確率は横軸の区間を積分して得られるので、二項分布のときは幅 1 だった 区間 の間隔)がこの分布では幅 に広がっている分、 正規分布のグラフは背が低くなる。離散分布の方は横軸のとびとびの値に対してしか意味を持たず、各確率は二項分布と同じである。両分布一見大きく違うように見えるが、累積分布を比較するとほぼ一致する。 下のグラフは、の離散 分布の累積密度関数と、正規分布の累積密度関数を同じグラフに書いたものである。ただし、正規分布は 𝑥+10まで(𝑥=1000のときはから 1010 まで)積分した値としている。
下のグラフは、同じ株価の分布が、5日後から10、15、20日後まで、どのように広がっていくかを示したものである。日数が経つとともに分布は広がるが、分布の標準偏差は に比例するため、広がり度合いは最初大きく、だんだん鈍くなっていく。 𝑛=5,10,15,20日に対する標準偏差 𝜎は、22円、32円、39円、45円である。正規分布なので、株価が平均の中にある確率は 95% である。当初 1000 円の株価が、 20 日後 (営業日として約1か月後)には 、910 円と 1090 円の間に ある確率が 95% になる。