1-4.異なる株のスケールを合わせる

ここまで、一種類の株価の変動を考えてきたが、実際の投資ではリスクを減らすために複数銘柄に分散投資するのがよいとされる。

S_0dの異なる複数の株を所有するとき、それぞれの株資産の分散を同じにするためには、何株ずつ 持てばよいか、という問題を考える。

p=q=1/2, u=dという仮定 は 引き続き行い、 初期値S_1,S_2,...,S_k、 1日の変化量d_1,d_2,...,d_kk種類の株があるとすると、各株資産を1株持った場合の n日後の株価はそれぞれ 正規分布

N(S_i,nd_i^2)

に従う。ここで、正規分布 には次の性質がある。

確率変数X正規分布
N(\mu,\sigma^2)
に従うとき、それをa倍したaX正規分布
N(a\mu,a^2\sigma^2)
に従う 。
すなわち、株を𝑎倍持てば、n日後の平均は𝑎倍、分散は𝑎^2倍(標準偏差𝑎倍)になる。𝑖番目の 株をa_𝑖株持った とすると、𝑛日後の 分布は それぞれ 、
𝑁(𝑎_𝑖𝑆_𝑖, 𝑎_𝑖^2𝑛𝑑_𝑖^2)

となる。各資産の分散は 𝑎_𝑖^2𝑛𝑑_𝑖^2である。これを同じ値(𝜎_𝑐^2とする) に合わせるためには

𝑎_𝑖=\genfrac{}{}{}{0}{𝜎_𝑐}{𝑑_𝑖\sqrt{𝑛}}

であればよい。すなわち、各𝑑_𝑖に反比例した量の株を買えばよい ことがわかる。 𝑑が 2倍なら𝑎は半分である。 1日の動きが 2倍の株は半分持てばよい、というのは直感的にも理解できる。

では、実践的な問題として、最初に総資産𝑊があり、これで𝑘種類の株を買う場合、それぞれの株を何株買ったら、各株の資産変動に対する影響が同じになるか、を考える。初期総資産は𝑊だから、

𝑎_1𝑆_1+𝑎_2𝑆_2+⋯+𝑎_𝑘𝑆_𝑘=𝑊

この式に上記𝑎_𝑖の値を代入して変形すると、

\genfrac{}{}{}{0}{𝜎_𝑐𝑆_1}{𝑑_1\sqrt{𝑛}}+\genfrac{}{}{}{0}{𝜎_𝑐𝑆_2}{𝑑_2\sqrt{𝑛}}+⋯+\genfrac{}{}{}{0}{𝜎_𝑐𝑆_𝑘}{𝑑_𝑘\sqrt{𝑛}}=𝑊

\genfrac{}{}{}{0}{𝜎_𝑐}{\sqrt{𝑛}}\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_1}{𝑑_1}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_2}{𝑑_2}+⋯+\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_𝑘}{𝑑_𝑘}\right)=𝑊

\genfrac{}{}{}{0}{𝜎_𝑐}{\sqrt{𝑛}}=\genfrac{}{}{}{0}{𝑊}{\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_1}{𝑑_1}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_2}{𝑑_2}+⋯+\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_𝑘}{𝑑_𝑘}}

𝑎_𝑖=𝜎_𝑐/(𝑑_𝑖\sqrt{𝑛})だから 、

𝑎_𝑖=\genfrac{}{}{}{0}{𝑊}{𝑑_𝑖\left(\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_1}{𝑑_1}+\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_2}{𝑑_2}+⋯+\genfrac{}{}{}{0}{𝑆_𝑘}{𝑑_𝑘}\right)}

となり、各𝑎_𝑖の値が𝑊と各𝑑_𝑖,𝑆_𝑖から求められた。

仮に、先述の実際の株で、𝑆_1=3390 (2019/12/ 30 の終値)、𝑑_1=52.5(1-20日前との株価の差か ら求めた𝑑の平均)とし、別に「1日後に1/2の確率で10円上がるか10円下がる1000円の株」があったとする(𝑆_2=1000𝑑_2=10)。初期資産100万円があったとして、株価変動に与える両者の寄与が同じになるように割り振るには、1番目の株を

a_1=\genfrac{}{}{}{0}{1000000}{52.5\left(\genfrac{}{}{}{0}{3390}{52.5}+\genfrac{}{}{}{0}{1000}{10}\right)}=115.74株

1日後に1/2 の確率で 10 円上がるか 10 円下がる 1000 円の株を

a_2=\genfrac{}{}{}{0}{1000000}{10\left(\genfrac{}{}{}{0}{3390}{52.5}+\genfrac{}{}{}{0}{1000}{10}\right)}=607.638株

買えばよい。

この時、最初の株の初期資産は 392,361 円、 1000円の株の初期資産は 607,638円とな
る。(無論実際には単元株以下の株は買えないので、近似値で買うことになる。)

 

-目次へ-